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アフター・コロナの観光3 ~Go To トラベル の生かし方

更新日:2020年7月10日

 今回は、Go To トラベル・キャンペーンを、地域経済から日本の経済回復へ、また地域が一丸となって観光コンテンツを磨くことで、日本の旅のステップアップにつなげよう、という内容です。

 長くなってしまったので、ご興味あるところからお読みください。


  1.Go To トラベル は経済政策

  2.Go To トラベル の内容

  3.「いまGo To なのか?」への説明

  4.地元経済の将来につなげるチャンスに

  5.冷静な感染リスクの受け止めを

  6.分散化でゆったり真価を感じてもらう


隠岐の国賀海岸。ろうそくのような、観音岩にかかる夕日が見られたのは、ジオガイドの案内があったからこそ


1.Go To トラベル は経済政策


 7月にもスタートするかと思われていたGo To キャンペーンですが、ようやく事務局の公募が始まりました。

 約3ヶ月間、早春からお花見、新緑、いちご狩りに、春休み、卒業旅行など観光要素が詰まったこの期間。マイナスどころか限りなくゼロに近かったものを埋め合わせるところまでいかずとも、このキャンペーンで幾分かは息がつけるのではないかと期待している事業者も多かったのではないでしょうか。


 延期のきっかけは持続化給付金の事務局のあり方に対する疑問だったので、いっしょくたに捉えられているところがありますが、同じ新型コロナウイルス対策といっても給付金とキャンペーンには根本的に大きな違いがあります。

 持続化給付金や1人10万円の特別定額給付金は新型コロナによる生活・生業を補填するセイフティ・ネットであるのに対して、Go To キャンペーンは経済活性化策だということです。旅行事業者やイベント関連業種、商店街などを「助ける」のではなく、それらの産業が活発になることで、「日本経済を立て直す」ための予算が、1兆6794億円規模になっているのです。

 それを前提として、さまざまな形で旅行産業に関わる人たちは、このキャンペーンをどう受け止めて施策を生かしていけばよいのか、考えてみました。

 私は小売業やイベント業のことは具体的にわかりませんので、ここではGo To トラベル についてのみ、書きます。



2.Go To トラベル の内容


 このキャンペーンの具体的な中身はなかなか見えてきませんでしたが、ようやく観光庁から『Go To トラベル事業』というタイトルの資料が掲載されました。Go To トラベルの国の支援額は、約1兆1250億円です。概要は、下記のようなものです。


<支援対象>

○国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の1/2相当額を支援。

一人一泊あたり2万円が上限(日帰り旅行は、1万円が上限)。

連泊制限や利用回数の制限なし

○支援額の内、①7割程度は旅行代金の割引に、②3割程度は旅行先で使える地域共通クーポンとして付与。


 実際の運用としては、旅行代理店・予約サイト経由で予約、または宿泊施設に直接予約した場合が対象となります。

 宿泊旅行の場合は、宿泊(クルーズや夜行フェリー、寝台列車のような宿泊に準ずるものを含む)が含まれることが必須で、セットされたプランならば交通機関や食事、観光等の分も割引対象になります。

 日帰り旅行の場合は、往復交通費に、食事、アクティビティ等がセットされているプランが対象です。

 3割程度の「地域共通クーポン」は、紙または電子媒体で発行され、旅先の飲食、観光施設、土産物、交通機関などで使用できます。


 実施期間はまだ決まっていませんが、事務局公募の企画提案書提出が6月29日までなので、この夏に開始するかどうか。赤羽一嘉国土交通大臣は6月16日の会見で「夏休みの早い段階を目指す」と話してはいますが。→ 7月22日スタートと決定しました(7月10日発表)

また業務実施報告書の締め切りが2021年3月中旬となっているので、長くても来年早々には終わるのでしょう。完成状況にも影響されるかもしれません。



3.「いまGo To なのか?」への説明


 Go To トラベルについて、「直接的な感染症対策が急務なのに、いまそんなことをやる時期ではない」という論調をよく耳にします。

 確かに、感染状況の把握、治療体制の強化、ウイルスと感染症の研究、ワクチンや治療薬の開発と確保、感染予防施策、疲弊した医療体制の立て直しなど、喫緊の課題が山積していて、そちらに注力しなければならないのは当然です。

 しかしその一方で、空白を作ってしまった経済を立て直すことも急務です。

 全産業の中でも、なぜ観光がGo To キャンペーンの主軸となったかの理由には、下記が考えられます。


○観光産業の重要性

 2019年、日本国内の旅行消費額は27.9兆円(前年比7.1%増)に達しました。現状、海外から日本、日本から海外への旅行はほぼできない状況なので、日本人が国内で宿泊・日帰り旅行をした際の消費額のみに絞っても、22兆円(前年比7.3%増)です。(令和2年版観光白書より)

 同年の名目GDPが553.7兆円ですから、観光産業の存在感は無視できませんし、成長産業でした。

 それに留まらず、ホテル・旅館の建設をはじめとした関連投資、観光産業の雇用等も日本経済に大きく寄与しています。


○経済に速く効く薬

 緊急事態宣言下で一時ゼロに近い状況に陥ったように、観光は「不要不急」の分野です。そのために、Go To トラベル不要論・時期尚早論が出てきています。観光=娯楽 という思考から、議会で予算が通りづらいような状況は、コロナ禍以前からありました。

 平素はその自治体における観光産業の位置付けが問題ですが、今回は日本全体の経済をどこで早急に向上させていくかというところがポイントです。新型コロナウイルスによってマイナスになった業界は卸売、製造、自動車、不動産など数多ありますが、即効性のある分野は幅広く多くの個人が、「必要最低限」を超えて、なるべく多額を消費するところです。

 緊急事態宣言下でも、コロナに関係するマスクや消毒液、在宅ワークに必要なPCやWi-Fi、家で食を楽しむパスタやホットケーキミックスなど、「特需」と言える個人消費もありました。逆にその間消費されなかったのが、メイク用品や服飾費、外食費、イベント等のチケット代、公共交通費、入園・入館料、旅行費用などでした。

 こうしてみると、Go To キャンペーンで挙がってきている旅行・イベント・商店街の妥当性が見えてきます。中でも旅行は消費額が大きいだけに、効果があると考えてよいでしょう。


○業界も消費者もWin-Win。さらなる波及も

 Go To トラベルが有効なのは、供給側(=観光業界)にテコ入れするだけでなく、需要側(=旅する人)にわかりやすくメリットが感じられて消費が促せることです。旅行費用の1/2が補填されるというのは、ありがたい話です。

 これまで家族旅行は無理だった家庭でも、この機会に格安のパック旅行が半額ならと、新たな旅行需要が喚起できるかもしれません。また1泊なら4万円、2泊なら8万円までという結構の大名旅行も半額なら、これまでよりランクアップしたプランで、旅の楽しみを広げる人もいるかもしれません。

 地域共通クーポンを使って直接現地で消費を促せる上、観光業者が稼働すれば雇用も増えますし、関連サービス、食品加工、農水産業などの需要も増します。



4.地元経済の将来につなげるチャンスに


 このGo To トラベル を利用して、個々の観光業者には少しでも早く危機を脱し、売上を戻していただかなければなければなりません。むしろ、それまでの間なんとか頑張ってくださいと言わねばならない状況のところも多いと思います。

 しかし敢えてお願いするなら、1兆円余りの税金を投入する経済政策を、「助かる」に留めないでいただきたいのです。


○「安いから来た」に終わらない

 クーポンという方法のデメリットには、

 (1) 通常の消費に利用されるだけ

 (2) 安いからというだけで、通常価格なら魅力を感じない

ということがあると考えられます。

 既存のクーポンサイトなどでも、新規顧客を獲得できるか と、お客さんをつなぎ止められるか というところでクーポンを発行することの成否が分かれます。

 クーポンによって瞬間的にお客さんが増えるのはありがたいことですが、そのサービスが通常価格でも納得できると感じて帰ってもらえなければ、当然、クーポンが尽きればお客さんもいなくなります。それでは、事業も継続しないし、地域や日本全体への経済効果もそこまでです。


○通常価格以上の印象を持ち帰ってもらう

 例えば宿に直接予約で、いつもなら1泊1万5000円のプランを選ぶ人が、キャンペーンを利用して2万円のプランに1万円で宿泊したとします。その時に、お客さんが「2万円の宿は1万5000円とさすがここが違う」と、驚きと納得感を実感してくれれば、(懐事情さえ許せば)次も2万円を選ぶようになります。

 そんな理屈通りに事が運ぶものでもありませんが、お客さんのイメージしているのはあくまで2万円のサービスです。誠実にその価値を提供して、喜んでもらうことが第一義です。さらに、他の2万円ではなく「当館の2万円」が選ばれるかどうかが、腕次第です。

 これは、宿だけでなく地域としても同じです。旅行商品が宿、観光、アクティビティ、交通と複合的になると価値が見えづらくなりますが、「次にまた選ばれる」という目的を確実に共有したいものです。


○地域独自の商品開発を

 Go To トラベル を限度額いっぱい有効に活用しようとすると、使いやすいのは旅行代理店・予約サイト経由でアゴ(食事)・アシ(交通)・マクラ(宿泊)や観光をまとめて予約したり、既存のパッケージツアーを購入したり、というのが現実的になります。

 そうなると、「結局、都市部の旅行会社などがいちばん有利になるだけか」とため息をつくかもしれませんが、そうとも言えません。

 「旅行代理店・予約サイト」は必ずしも大企業だけでなく、ここ数年、全国で増えてきた旅行業の登録をしたDMOや観光協会も、その区分に応じた手配旅行やパッケージツアーでキャンペーンを利用することができます。区分によってツアーの範囲が限定されたり、販売力は大企業に叶わなかったりしますが、地域に密着している分、地元同士だからこそ実現できる観光スポットの開発(例えば、非公開の私有地に特別入れるなど)や、個人の協力(当事者や達人が直接ガイドするなど)、移動手段の便宜など、「そこならでは」の魅力をもたせることが可能です。

 協会などが旅行業登録していなくても、地元の旅行代理店に企画旅行を作ってもらうこともできます。


○直接旅行者と関わるところにメリットを

 そのようなことができれば、より現場に近い人や業者がキャンペーンの恩恵を直接受けられるようになります。また、連携して商品開発をすることによって、地域の新たな価値を創造できます。

この機会に旅行者に確実に地域の魅力を伝えることができれば、リピーター、ファンになり、将来の観光収入、地域経済、さらには交流人口・関係人口の増加にもつながる可能性を秘めています。



5.冷静な感染リスクの受け止めを


 都道府県境を越えた移動自粛が解除になった後も、なかなか心おきなく「来てください」とは言いがたいムードがあります。確かに人が移動すれば、しなかったときよりも感染のリスクが高くなるのは当然で、心配なのは仕方ありません。

 しかし、当初COVID-19の正体がまるでつかめていなかった時期と違って、大都市部や他国の感染状況から少しずつ対処のしかたが見えてきました。私のいる東京では、閉鎖空間ではマスクをするのが当たり前になりましたし、建物に入るときには自然と消毒液を目で探してしまうのが習い性になっています。列に並ぶときには間隔を開けるし、不用意にパーソナルスペースに入ってくる人がいれば自然と離れるように体が動いています。どこでも頻繁に消毒している姿を見かけますし、以前のように派手なくしゃみをする人もいなくなりました。

 自分も含め誰もが、「感染者である可能性がある」と自覚して普通に行動することで、全体として一定の「安心」を感じながら、しかしその一方で「気をつける」意識ももって徐々に必要な社会活動を始めたというところでしょうか。

 特に重症化のリスクをもっている方は、それ以上の防御が必要なのは言うまでもありませんし、お客さんを迎える側が合理的な感染対策を取るのは当然ですが、恐れるあまりにフリーズしてしまっては、自分だけでなく周囲までも社会的に葬ってしまうことになります。

 それよりも、避けられず新たな陽性者が出た場合に、冷静に適切な対処を取り、それ以上感染を広げないような態勢を整えて幾重にもシミュレーションしておくことが、地域の力となります。



6.分散化でゆったり真価を感じてもらう


 観光コンテンツ造成の際に特に留意したいのが、先のブログ「アフター・コロナの観光 ~3つのポイント」でも書いた、分散化という点です。


新型コロナウイルス以前から、一部でオーバーツーリズムが問題になっていました。今後はそれに加えて、感染症拡大防止の目的でも人が集中するのを避けることが必須になります。Go To トラベル 期間中、週末のほかに、間に合えば夏休み、9月のシルバーウィークの4連休、11月1週目の飛び石4連休、4週目の3連休、年末年始、場所によっては紅葉時期には旅行者が集中することが予想されます。

 恐らく、その期間にキャンペーンは利用できないというような運用はしないでしょうから、受入側で工夫しなければなりません。


 混雑が予想される場所と時間には、予約制にする、プレミアムなサービス(例えば食事、ガイド、特別公開など)と組み合わせて料金を高く設定する、地元企画のツアープラン参加者限定にする、といった、これまでにない思い切った対応を考える必要があります。

 その一方で、通常よりも利用できる時間を延ばして、入込を分散させる方法もあります。例えば、誰も体験できなかった真夜中の寺社を公開するとか、テーマーパーク始業前の点検を見学できるとか、夜明け前後の絶景スポットのガイドツアーをするとか。後々、それがキラーコンテンツになるかもしれません。

 また、集中日を避ければ体験できる目玉コンテンツを企画するとか、平日限定で便利な二次交通を確保するとかで、繁忙期でなくても旅行できる人を誘導するのも一策です。

 孫と旅行したい高齢者は、子・孫の休日に合わせて旅行日程を組まなければならない事情がありますが、お祖父さん・お祖母さんに月曜、火曜まで残ってゆっくり休んでもらうプランも、Go Toトラベル の割引期間なら利用しやすいでしょう。

 地域の資源とアイデア次第で、集中を避けながら、かえって新しい旅行需要を掘り起こすことができるのではないでしょうか。このようなコンテンツの工夫は、インバウンドが戻ってきたときにも、きっと強い武器になります。



 Go To トラベル を機に地域のさまざまな人や業種が本気でコンテンツを開発し、多くの観光客に評価されることになれば、観光地としての価値も高められるし、マーケットを広げ、より有力な顧客を獲得していけます。

 これまでの旅行商品は、いかに個々の単価を抑えながら、安く、多くを詰め込んで、大勢誘客するか、に注力していたところがあります。特に、格安日帰りツアーはその傾向が強く、“お得感”に満足した気分になっていただけで、実際にその土地を踏み空気を吸うからこそ得られる旅の楽しみをみすみす失っていることもあったと思います。

 旅行業界も旅行者もそれに馴れてしまったことで、日本には世界の富裕層を満足させられる観光コンテンツがない、というような不名誉な話も聞かれるようになってしまいました。

 Go Toトラベル は、思いがけず同じ値段でいつもの2倍のバリューの旅ができるチャンスです。これを利用して、日本人旅行者がワンランク上の旅を楽しんで、日本の旅を一段レベルアップする。それには、旅行者を迎える現場の地域の力が欠かせません。

 日本人がこれまでになかった一歩先の旅を育てていれば、また外国人旅行者が訪れるようになったとき、日本の旅はより魅力的になっているはずです。

 事務局選定に手間取っている分、少し時が稼げています。ここで地域の人の力を結集して、キャンペーンを生かした魅力あるコンテンツを作り、旅の次のフェーズに向けてスタートしましょう。


 本稿にご意見やご質問がありましたら、ぜひメールでご連絡ください。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


旅LABO本郷  柳澤 美樹子



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