with「Go To トラベル」の日本の観光【前編】~これからの旅創造に生かそう

最終更新: 7月25日


 7月21日時点で、Go To トラベル キャンペーンは、スタートを明日に控えて混乱を極めています。その理由は、


・キャンペーンの具体的な運用の説明会が21~26日

・「東京外し」「若者・高齢者の団体旅行」の適用範囲が不明確


という根本的なところが周知徹底できていないからです。

 ちょうど東京など都市部の感染者数が伸びたタイミングで発表されたという、間の悪い不運さがあったことは理解できますが、そのようなリスクを許容できないような無理なスケジュールだったことは誰もが認めるところでしょう。

 いずれにせよ現実問題、観光客も観光事業者も、政府が決めたものの上で動くしかありません。私個人としては、もし現在のような感染状況でなく新型コロナウイルスが落ち着いていたとしても、Go To トラベルは早くても8月末からのスタートが望ましいと考えていましたが、今から全部を延期などしたらそれこそ収集つきませんから。


 ここでは現行のGo To トラベルを前提に、

 【前編】では、これからの旅創造に生かそう

 【後編】では、”新しい旅” 実現に必要なこと

を述べていきたいと思います。


 1.Go To トラベル のどこが問題だったのか

 2.観光の守ってきた信用を壊した

 3.観光業界の壊滅的な現状

 4.「直接観光業界にお金配ればいい」への反論

 5.キャンペーンを利用して、これからの旅の創造へ



こんな風景の中で日がな一日過ごすことが、新しい旅の価値になり得る(島根県隠岐)

1.Go To トラベル のどこが問題だったのか


 現在のような大混乱を招いたのは、拙速朝令暮改の2つの原因があります。


○スタートが拙速だった

 Go To トラベルは、持続化給付金の事務局問題の煽りを受け、Go To キャンペーン全体の担当官庁を分割するなどの変更を経て、手間取りました。

 公募された事務局が決定したのが7月10日。それと同時に、開始日7月22日(=23~26日の4連休前日)も発表されました。


 その間、わずか12日。キャンペーンの総額や支援額の割合、適用範囲などは以前から公表されていましたが、旅行会社や観光地の施設・店舗・宿などが具体的にどのような手続きを取るかについては当事者にも知らされませんでした。支援金の申請から振り込まれるまでの手続きは、事業者一時的に支援額を立て替えることになるので、重要です。そのシステムは、既にできているのでしょうか。

 「Go Toトラベル事業 説明会」は、21~26日に東京・札幌・仙台・名古屋・大阪・福岡で合計14回・4260名の定員で開かれます。大都市を会場にしているということは、対象が主に旅行会社ということなのでしょうが、22日から直接旅行者と接する現地の事業者は、どうするのでしょうか。旅行会社でも、全国各地で着地型ツアーなどを取り扱っているところがたくさんあります。


○朝令暮改で不信感のみ残る

 それに加えて、感染者数増加を理由としたキャンペーンへの批判への対応として、7月17日なって

東京への旅行東京在住者の旅行をキャンペーン対象外とする

若者・高齢者の団体旅行大人数の宴会を伴う旅行は「控えることが望ましい」

の2点を発表しました。


 東京外しについては、他県宿泊で個人的に東京を観光するのは対象になるが、ツアーのコースに入っていれば対象外など理屈に合わない部分が多い上に、都民でないことの確認作業、大量キャンセルの処理クレーム対応など、既に実質的な問題が生じています。

 若者・高齢者・大人数に関しては、範囲も定かでない上に「望ましい」と言っているだけです。

 当初の発表からわずか7日で、施策の最重要ポイントである「対象」を変更するという事態に、直接の混乱だけでなく「この先も対象外が増えるのでは」との不信感も広がっています。



2.観光の守ってきた信用を壊した


 旅行は、大きな出費をするだけでなく、貴重な時間を捻出して決めるイベントです。時には、人生の重要な転機になり得るもので、旅先での出会い、重要な決断や吹っ切りのきっかけ、最後の思い出、創作の端緒など、経験している人も多いのではないでしょうか。

 経済だけ見ても、旅行代金を先払いしてもらう旅行会社は、常に多額の営業保証金を供託することを求められます。それだけ、観光は信用がたいせつなのです。宿や観光施設などの現場も、観光者の安全を守りながら少しでも快適に楽しく過ごしてもらうために、日々心を砕いています。その積み重ねがあって、来訪者の信頼を得、選んでもらえる観光地を築いているのです。


 今回、制度の根幹となる事項を変更したことで、観光客は旅行することに強い不信感をもつようになりました。キャンペーンを適用できるか否かは、価格の35%に反映するものです。価格という業者と旅行者との重大な約束を、途中で違えてしまったのです。それは、これまで観光業界全体が努力して積み上げてきた信用を、打ち崩す行為でした。


 キャンセル料について、21日なって「3割まで政府が負担する」と発表したようですが、事実上、政府側が取引の条件を一方的に変更したのですから、キャンセル料を負担するのは当然です。むしろ、このタイミングでのどんでん返しは、倍返し相当です。(本来要らなかったお金ですし、結局原資は税金なのですが)



3.観光業界の壊滅的な現状


 7月17日に観光庁からリリースされた「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」によると、5月の国内旅行の取扱高は、なんと前年同月比わずか3.4%でした。当然、海外旅行は1.0%、外国人旅行(インバウンド)は0.2%と、さらにひどい状況です。

 観光地の現場でも、地域や施設によって若干の差はあるかもしれませんが、同様の状況でしょう。

 5月といえばゴールデンウィークがあり、新緑の時期であり、天候が安定し、修学旅行をはじめとした団体旅行も動く季節です。そこがゼロに限りなく近い数字であれば、年間売上の数割を減じます。7月になってようやく少しは観光客が戻りつつあるようですが、宿でよく「きょうの部屋は、あしたには売れない」と言うように、新型コロナで失った収入は後から取り返すことはできません。

 まして、予定通りなら今ごろはオリンピックの活況のただ中。それに備えた投資をしていたところも多いでしょう。


 そのような観光業界に梃子入れをして、活性化させようというのがGo To トラベルの目的でした。

 そもそもGo To キャンペーンに約1兆7000億円の予算を取ることに反対していた人たちは、“強盗キャンペーン”“Go To トラブル”などうまいこと言っているようですが、そんな軽口を叩いている場合じゃないというのがほんとうのところです。



4.「直接観光業界にお金配ればいい」への反論


 Go To トラベルの内容では、人が動くから感染を拡大することになる。業界を助けるなら直接お金を支給すればいい、という意見をよく耳にします。

 Go To トラベルの予算は、1兆1250億円。それに対して、2019年の国内旅行消費額は27.9兆円です。日本人の国内旅行だけに限っても、22兆円です。キャンペーン予算は、そのわずか5%。それを直接事業者に支給しても、焼け石に水です。


 キャンペーンは、単に資金をつぎ込むだけではありません。

 旅行代金の35%を補助する、(9月以降には)別途15%分の地域共通クーポンをつけることで、旅行への動機付けをし、いつもよりも奮発してキャンペーン金額の2倍超の旅行消費をしてもらおうというのが、Go To トラベルです。


 それでも、他の業界も困っているのになぜ観光なのか? というと、観光は観光客が直接消費するだけでなく、周辺経済への波及効果がたいへん大きいからです。

 観光客が旅行先で食事する、お土産を買う、交通機関を利用する……ということだけでなく、観光業者に直接関わる食材納入、清掃、リネン、庭師から、人気の直売に野菜を出す農家、コンビニエンスストアやガソリンスタンド……。地域のあちこちに影響があるのです。

 この状況は、都会で暮らしていると想像するのが難しいかもしれません。東京で近所に有名ホテルがあっても、それが商売に関わる家はほとんどないでしょう。しかし、観光とまで広げるまでもなく、1軒の人気旅館だけでも“地域の主要産業”と言えるほどの地方もあるのです。

 観光は多くの地方の経済を面的に活性化させるのに効果のある業界であるということが、旅行がGo To キャンペーンの主軸となっている意味なのです。


 また、「Go To トラベルは、旅行する余裕のある人に有利なもので、そこに予算を使う必要はない」という意見もあります。確かに、より優先順位が高いのは、もっと困窮している人への支援や、医療への正当な対価の支払いです。しかし、みんないっしょくたに優先順位を考えては、旅行業界が総崩れしても順番は回ってきません。それは別途予算を取り、同時に経済も考えなければなりません。

 旅行というのは本来、最低限の生活にプラスの余裕をもった人ができるものです。その人たちが旅に出て出費することで、経済を動かしてもらう。1度旅行するところを、2度、3度にしてもらう、というのがGo To トラベルです。品のない言い方をすれば、余裕のある人からお金を引き出す誘い水で、キャンペーン予算を何倍にも膨らませて世の中に撒く政策なのです。



5.キャンペーンを利用して、これからの旅の創造へ


 Go To トラベルで日本中からそのような支援を受ける旅行業界は、これからどんな旅のシーンをつくっていったらいいのでしょう。


 新型コロナウイルスが現れる半年前までの日本の旅行は、かつてのエージェント主体の団体旅行、パッケージツアーから、個人、小グループ単位の旅へのシフトという大きな流れがありました。それに重なるように、2010年頃からインバウンドが増加し始め、2019年には訪日外国人客数が3188万2000人と過去最高になっていました。

 その一方で、特定の観光地に観光客が集中してオーバーツーリズムとなり、”観光公害”とまで言われるようになっていました。


 しかし、新型コロナウイルスの性質がわかってきた今、大勢が有名観光地に一度に集まる旅行スタイルは感染対策上、もう考えられないものになりました。今後は、これまでになかった新しい旅のあり方を探していかなければなりません。

 これからの新しい日本の旅を考える上で重要なポイントは、空間と時間で人を分散させること。それを工夫することで、安全で豊かな旅を提供しながら、適正な収入を上げていくことです。


 日本の観光は、大人数を一気に動かし、そこに集中的に人手をかけて効率よく利益を上げた時代の記憶から、脱却できずにいるところがまだたくさんありました。しかし新型コロナウイルスがそれを許さなくなりました。

 旅行者も、人との距離を取ることが習慣づき、旅先では「都市部にない、ゆとりある空間」のありがたみを強く感じるでしょうし、それが旅行の重要な価値のひとつとなります。


 以前、観光客があふれていたようなところは、事前予約制にするなど、人数のコントロールが必要です。それで新たにかかる経費や入込数が落ちる分の減収は、よりプレミアムなコンテンツ提供で料金を高くする、公開時間を長くして、例えばこれまでになかった時間帯ならではの体験を提供するなど考えなければなりません。知恵の出しどころで、ここには若い人たちの発想を大いに入れてほしいです。

 観光地側は、そのような新しいものを探し出し、それをより快適で深い楽しみを感じられるような運用をすることで価値を高め、収益を上げられる商品に磨き上げ、これからの時代の観光を創造していかなければならないのです。


 従来は年末年始・GW・お盆・連休のトップシーズンに年間売上のほとんどを稼いで、オフシーズンの平日は閉めてしまう飲食店や土産物店もよく見られました。しかし、トップシーズンに過剰に人を集められなくなれば、まんべんなく年間を通した集客方法を工夫する必要が生じます。日帰りや一泊では帰らないインバウンドは、平日を埋めてくれるありがたい存在です。リタイア組のグループやご夫婦需要も同様です。それに加えて今後は、長期滞在してもらえるような工夫を凝らす、近場の方が利用しやすくする、小さな子どものいるファミリー向けのコンテンツを考えるなど、新しいサービスを生み出すことになるでしょう。また、新型コロナウイルスで定着しかけているテレワークに適した地域にすることにも可能性があります。


 もちろん観光地の努力だけではなく社会全体が、分散して休日を取得できるように変わるとか、地域ごとに長期休暇をずらせるようにするとか、学校も必ずしも登校にこだわらなくなるとか、体制やマインドの変革もしていく方向付けもしていかなければなりません。


 Go To トラベルには、そのような大きな変革の節目にあって、旅行者が新しい旅を体験する背中を押すきっかけになったり、観光地側が思い切ったプランを試行するハードルを下げたりする役割を担わせたいと考えます。単に、キャンペーン予算が尽きるまで、お金を落とすシステムではもったいないです。

 新型コロナウイルスは“観光産業革命”を強制的に促すもので、それが進めば今後の地方経済を以前よりも強固にすることも可能です。


 そもそも「新型コロナ収束後の観光需要喚起」という位置づけだったGo To トラベルを、どのような目的で前倒ししたのかはっきりしません。しかしせっかく実施するなら、将来に向けて最大限生かせるような運用に業界挙げて取り組んで効果を最大化し、社会にこの巨額予算を理解してもらいましょう。



【後編】“新しい旅”実現に必要なこと も併せてご覧ください。



 本稿にご意見やご質問がありましたら、ぜひメールでご連絡ください。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

旅LABO本郷  柳澤 美樹子

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