2021年11月28日(日)、南沢あじさい山(東京都あきる野市)でお山のシーズンオフを体験できるイベントがありました。
南沢あじさい山は、南澤忠一さんが半世紀かけて1万株超のアジサイを植え、育ててきた山。6~7月には次々と花を咲かせ、一万数千人の人が花を楽しみに訪れます。
「お花見」だけなら咲いているところを見ればそれでおしまいなのです。でも南澤さんが創ってきたこのお山、地元で起業している若い人たちが受け継いでいくというのですが、それはどんなことなのか? きれいな花を咲かせるために、その他の時期には何をしているのだろう?
それを、話に聞いたり動画で見たりというだけでなく、やってみて体験しようというものです。
体験メニューは2つ
ひとつは、実際に山に入ってアジサイの剪定を見せてもらい、剪定した枝を小さく切っていく作業体験。
もうひとつは、ドライフラワーで「スワッグ」という花束作り。
10時前にお山に集合したのは、参加者9人。南澤忠一さん、和江さん。和江さんのリースをプロデュースしている田川登美子さん。お山を受け継ぐ株式会社do-moの髙水健さん、南嶋祐樹さん。それに旅LABO本郷の楠聖子、柳澤美樹子の総勢16人です。
みなさんを紹介しながら、忠一さんがアジサイを植え始めたきっかけ、あじさい山を担当している南嶋さんから一年を通じてお山で行われる作業などの説明を受けました。
聞きたいことは尽きないのですが、続きはランチの時に取っておいて、まずは2グループに分かれてお山に触れました。
お山の作業体験グループ
花の季節だけ来ていてはわかりませんが、あじさい山では年間を通して右のような作業が行われています。常に何かしらやるべきことがあるのですね。
いちばん作業量が多いのが、「剪定」です。
アジサイは放っておくとかなり大きくなってしまって、花の付きも悪くなるし、第一、背丈より上で咲いても見えなくなってしまいます。翌年もいい花を咲かせるには、剪定作業が欠かせません。しかし、なんせ1万以上の株ですから、やってもやっても終わりません。
しかも剪定のやり方次第で次のシーズンの花付きがぜんぜん違ってしまう、難しいものです。忠一さんに弟子入りして5年になる南嶋さんも、いまだに怒られているそうです。
「園芸書を読むとよく、1節目か2節目を剪定すると書いてあるのですが、こういう広い山では当てはまらなくて、忠さんが何十年もやってみて見つけたやり方があるんですね」
道を外れて谷の急斜面に入っていくと、そこにも斜面全体にアジサイが植えられています。ここは歩道から見ると谷の対岸になるので、背丈より大きな株にしています。そういうところも計算されています。
ひとつの株からも無数に枝が出ていて、旺盛な生命力も感じます。それだけに、放っておいたら巨大になってしまいます。
「枯れた枝は切ってしまいます」と言われても、どれが枯れているのかちょっと見ただけでは見分けがつきません。さらに、「上からたどっていって、ここまでは切っても大丈夫というところで剪定します」に至っては、「???」。無理もありません。忠一さんは「10年もやればわかるようになる」と言っていたそうです。
切りすぎてしまうと翌年はその枝に花が付かないので、剪定の方は南嶋さんと髙水さんに教えてもらったところまでに。それより、剪定した枝を短く切って地面に撒くのが、きょうの主な仕事です。
庭園のようなアジサイ園では、剪定枝を集めて捨てるのでしょうが、忠一さんはその場に切って撒くことで、それが肥料になって次の花に生かされるのです。意図せぬSDGsですね。
数人で2時間かかって取り組んでも、広いあじさい山からしたらたぶん0.x%。ずっとひとりでやってきたとは考えづらいのですが、忠一さんはこれを“爆速”でやって、どんどんきれいにしてしまうのだそうです。
実際にやってみて初めてわかる、半世紀の重みでした。
スワッグ・グループ
2021年の「南沢あじさい山まつり」からの新コンテンツに、和江さんの「ドライフラワー工房Cazue」が加わりました。これまでも、花の後に剪定したアジサイなどの植物をドライフラワーにしてリース作りをしてきた和江さん。その素敵さに着目して、同じ集落に住む田川登美子さんがプロデュースして、工房の公開、リースの販売を始めたのです。
和江さんが作るリースには金属や化学製品が使われていないので、充分に楽しんだ後にお山に持ってくればあじさい山まつりの入山券をプレゼントしてもらえる「里帰りするリース」という、これまたSDGsの価値もあります。
今回は、和江さんが忠一さんのお手伝いや家の仕事をしながら集めて乾燥させている、アジサイをはじめさまざまな花、実、ツルなど豊富な花材を使って、スワッグ=花束を作ろう、という企画です。
南澤家の車庫の2階にある工房には、ドライフラワーがいっぱい。その中から、各自好きなものを選んで、スワッグ作りに取りかかりました。
「私はリースを習ったこともないから、自己流で……」と言う和江さんですが、参加者からのアンケートに、「和江さんに最後に手を入れてもらったら、どんどん素敵になっていくのに感動しました」という声がありました。究極には「センス」ということなのでしょうが、これまで自分で考えて作り続けてきたことや、この自然の中で育った経験がそれを培っているのでしょう。
登美子さんからアジサイの種類やそのテイストの違いなどを話してもらえたのも、スワッグを作る上で参考になったそうです。
作業をしながら、親世代の介護の話なども出て、「オアシスのような心おだやかな空間」だったという感想もありました。
できたスワッグには、みんな大満足。次に来た時にはどんなのにしよう……と、次への期待もふくらんだようです。
ランチ&交流会
それぞれ2時間ほどの作業の後に集まったのは、忠一さんが焚いていてくれた焚火のまわり。do-mo kitchen blan.co の特製ランチも待っていました。do-moのシェフ・上村孝太郎さんがこの日のために作ってくれたメニューは、
・ひのはらアワビ茸の炊き込みご飯
・自家製塩麹の唐揚げ
・里芋入りハンバーグ
・だし巻き卵
・自家製ピクルスとナムル
掛け紙まで特製! do-moのレストランやカフェでは、なるべく地元の食材を使ったメニューを提供しています。
お茶は、南嶋さんが作っている「ちゅういっちゃんのあじさい茶」です。4月8日の花まつりでお釈迦様の像にかける甘茶と同じもので、アジサイの一種の葉を発酵させることで甘味が出ます。その甘さ、砂糖の1000倍と言われるのにノンカロリーという、ヘルシーなお茶です。自然の甘味が、身体の中からいやしてくれるよう。(このお茶が、do-moと南沢あじさい山を結びつけたきっかけなのですが、その話は今回省略)
食事の後は焚火を囲みながら、それぞれの体験を伝え合ったり、忠一さん、髙水さん、南嶋さんに質問したり。あじさい山の成り立ちや、季節の花(ロウバイ、ハナモモなどアジサイ以外にもいろいろ)、南沢あじさい山まつりの運営、あじさい山以外のdo-moの事業などなど、話題は尽きませんでした。
焚火の火のゆらめきや温もり、煙のにおいも、みなさんの癒やしポイントでした。
今後の体験企画
今回、小人数で試験的に行ってみた企画でしたが、アンケートではみなさんそれぞれに体験を楽しんでくださり、次へのアイデアを数多く寄せていただきました。
花の時期に来ただけではわからない、バックステージツアーのような体験をしてもらいたいと考えて実施したのですが、正にその価値を感じていただけたのがなによりうれしいことでした。
それには南沢あじさい山の環境とか歴史・ストーリーとかいろいろ要素があるのですが、いちばんは忠一さん、和江さん、田川さん、do-moの髙水さん、南嶋さんそれぞれの、日々の暮らし・仕事そのものと、それを伝えるキャラクターによるということを実感しました。
地に足の付いた現場と、嘘のないことば。それがどんなに価値のあることか、焚火の火を見ながら、意識しない部分で受け取った気がします。
みなさんからいただいたご意見・ご提案を元に、来年から新しい企画を立てていきたいと考えていますが、「人」がキーポイントであるだけに、こちらから有形・無形の形で還元できる方法も模索したいと思います。
(3点を除いてすべての写真/楠聖子さん撮影)
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