アフター・コロナの観光2 ~はじめの地元観光

最終更新: 6月20日


飛驒古川の街並み(岐阜県古川市) 市民が主体的に作った景観条例をもっている

 緊急事態宣言の解除が広がり、少しずつ人が動き始めました。これまで「出るな」と制限されていたストレスが、「旅に出たい」という欲求を高めていることが、各種の統計に表れています。

 しかし現実的には、海外旅行は物理的にほぼ無理ですし、国内でも県境を越えることを推奨している都道府県はありません。「まずは近場から」の旅は、既に始まっています。

 その対策として、自治体でも地元観光の推進に補助金やクーポンのようなバックアップを始めているところもありますし、地元客への割引や特別プランを設定している事業者も出てきています。

 待ちに待った明るい再スタートです。しかし、ぜひとも「手近な人向けの安売り」だけの商品になってほしくない、というお願いを込めてこの稿を書きます。今回は、次の4つのポイントになります。

1.観光を理解してもらう千載一遇のチャンス

2.近くの人たちの果てしない価値

3.でも、やっかいなお客さん

4.共通点を生かしたサービス

 これまでほぼゼロだったのをわずかでも取り返すため、地元のニーズに応えて急いで売上を立てなければならない状況、痛いほどわかります。私も、こうしているより人手不足の業界へ履歴書を持っていきたい気持ちがあります。

 しかし、よかったら下記のブログをお読みください。新型コロナ対応で老舗料理屋さんがランチのテイクアウトのを手伝った、食品メーカーの社員の方が書いたものです。テイクアウトはうまくいったのですが、ご主人に店を閉めようと思うと打ち明けられた、という状況です。

老舗料理屋のテイクアウトを手伝って「自粛要請」「新しい生活様式」のぶっ壊すものが見えてきた。

 心に深く残ったのは、ご主人の「値段はさ、ただのものの値段じゃなくてお客さんとの約束なんだよ。約束は裏切れないよ」ということばでした。


1.観光を理解してもらう千載一遇のチャンス

 今から起こる、「まずは近場で旅行気分を味わってみるか」という需要は、旅行者にとっては消去法なのかもしれませんが、事業者にとってぜひつかみたいチャンスであることは間違いありません。


 多くの観光地は、これまで生活圏を共にするような人たちを「お客さん」としてきませんでした。東京や大阪のようなたくさん人がいる都市、さらには政府も勧めてきた外国から来てもらおうと、宣伝・PRに心を砕いてきました。ファミリーがレジャー施設を利用するとか、忘年会や歓送迎会の宴会を温泉旅館で開くとかはあったかもしれませんが、同じ市町村内や近接地の人を積極的に呼ぼうと働きかけてきたところは少ないと思います。

 近隣住民も、「あるらしい」ことは知っていても、自分の行動とはつながらないものだと関心を向けていなかったのではないでしょうか。それは、どこでも同じです。東京の人だって、東京タワーも東京スカイツリーも展望台までは行ったことない人が大半です。


 しかし、既存の観光地には、他にたくさんある旅先ではなく、そこに人が来てくれる理由があるのです。それは、文化的意義のある歴史遺産だったり、都市では味わえない自然だったり、自宅にはない旅館のもてなしや温泉だったり、目にも舌にも訴えるお料理だったり……。価値あるものを求めて、「一度は行きたい」「よかったからまた行きたい」とやってくるのです。


 地域の人も、人の心を惹きつける価値や魅力を知っていれば、家の前を通る自動車も「あれを見に来たか」と納得し、「いいものだからちゃんと味わっていけよ」という気持ちになるはずです。きょろきょろしている旅行者とすれ違えば、一言かけてあげたくもなります。

 旅行者も仕事ではないのですから、元々目的のものを一直線に目指してさっさと帰ろうと思っていません。みなさんそうだと思いますが、思いがけない会話とか、たまたま知ることのできた地域性とかが、後になってみると旅のいちばんの思い出になったりするものです。それを提供できるのは、地域の生活者です。


 経済的な角度から見ても、旅行には衣食住・遊び・学び・体験・運動・挑戦……と無限の要素があるだけに、地域のあらゆる産業と結びつきます。観光収入は、観光事業者のものだけでない第一次産業からサービスまで、広い経済活動に波及することは言うまでもありません。

 今回のチャンスに、近隣の人たちに「人が集まるだけの魅力」を体験してもらい、それを自慢できる誇りとし、地域の力につなげてもらおうではありませんか。


2.近くの人たちの果てしない価値

 魅力を知っている地域の人が、観光に役立ってくれるのは、外来者が迷っているときに道を教えてくれるだけではありません。とても優秀なスタッフにもなってくれます。

○宣伝担当

 自分が「すてき」と感じたことは、人に話したくなりますし、他地域の相手だったらご当地自慢したくなります。実体験に基づく口コミが何より強力な宣伝効果をもつことは、周知の事実。

○営業マン

 別荘客などもそうなのですが、友人・知人が来たときに家に泊めるのではお互い気を遣うので宿は近くにとか、お夕食を振る舞うのはたいへんなので外食にとか、子ども同士で遊べる場所とか、勧めてくれます。普段から自分が知っているところなら、大切な人にも安心して自信をもって、ご案内できます。

 都会で暮らす出身者も、「どこかいいとこない?」の問いかけに、ふるさとをPRしてくれます。

○協業者

 観光に来てくれる人は、それぞれのバックグランドをもっています。話してみると、質の高いサービスに結びつくアイデアや技術が発見できるかもしれません。闇雲に探すのはたいへんですが、自分からやってきてくれる中にそんな人が見つかったら、大収穫です。

○オフのお客さん

 近くの人なら、わざわざ混んでいる日や時間を選んで観光しようとは思いません。ゆっくりできて、なんなら少々のわがままもきく、平日やオフシーズンに来てくれます。しかも、近いから年に何度も、うまくいけば月に何度も来る可能性があります。

 一足飛びにはいきませんが、コンスタントに人が来てくれるようになることは、将来的に年間通して安定した収入を期待できることになり、そうするとこれまで助っ人的にお願いしたパートやアルバイトも安定雇用できるようになり、使用者も雇用者も安心と責任を共有できます。もちろん、実情に合わせたフレキシブルな仕事の仕方を選べるようにして。

 それは必ずサービスの向上新しい企画にも結びつき、顧客に選ばれる決め手になります。


3.でも、やっかいなお客さん

 しかし一面、地元の人は「やっかいなお客さん」でもあります。

 都会の人だったら、朝露のついたキャベツを見ただけで「わぁっ!」とうれしくなりますが、地元の人にはそんなもの当たり前です。地域独自の歴史や文化も、「それ、小学校で習ったわ」「知ってる、知ってる」ということです。

 その人たちを驚かすには、プロとしての高い能力が絶対必要になります。

 例えば野菜。その季節にそこで収穫される野菜など、そうは変わりません。珍しい品種のレタスとか、特別な栽培法で作ったトマトとかは、どこでも扱えるわけではありません。でもプロなら、家庭ではできない一手間二手間をかけたご馳走にしたり、地元の他の食材との組み合わせで思いがけない味を引き出したり、「へえ」「この発想はなかった」という驚きを与えられます。

 文化施設でも、地元の人ならみんな知っている概略的なことではなく、人や物にまつわるエピソードや、その土地の特色-気候とか風習とか食べ物とか-を引き寄せた話題を専門ガイドが話したり、わかりやすい展示で伝えたりしたとしたら……。帰ってから人に話して「今度行ってご覧」と勧めたり、次には子どもを連れてきたりするでしょう。

 こういうやっかいなお客さんに揉まれたサービスはレベルを上げ、遠くから来る人にもきっと評価されるようになって、強い観光地につながります。

4.共通点を生かしたサービス

 近場へ観光に行く場合、ヨーロッパの街並みに目を見張るような異次元の体験は、普通求めません。毎日の生活の小さなアクセントとか、評判らしいから話の種にとか、小さな違いを期待していきます。大して変わらない空間なのですから、当然です。それだからこそ、気に入れば気軽に何度も来てもらえるというメリットがあります。

 狙い目は、小さな違いの期待です。その期待よりちょっと上の体験をしてもらえれば、「近くなのに」バイアスがプラスに作用して、印象は強くなります。

 例えば先ほどの野菜。食べるだけでなく栽培している畑に連れて行ったら、「こんな管理をするからおいしくなるのか」と、都会人にはピンとこないところで感心するかもしれません。その野菜のお料理に満足させられたら、家庭でもかんたんにできるちょっとしたコツを、シェフが教えてしまいます。毎日食事を作る身としては、手をかけずに目先が変えられるのはとても貴重な情報です。そしてそれを家で作る限り、その日のことは忘れません


 このような「ちょっと上」は、お客さんとのコミュニケーションがないとなかなか生まれません。その点、近場のお客さんは共通点が多いだけに、話の取っかかりもつかみやすいし、広げたり引き出したりもしやすいでしょう。

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 やっと観光が動き出した今、これまで来ていなかった近場の人に観光してもらおうと思ったら、価格を下げて、地元仕様の商品を売ろうとしてしまいがちです。よく、観光客には郷土料理を出すけれど、地元の宴会料理には他所の食材を使ったいわゆる「宴会定食」にする、ということがあります。会社の忘年会なら、それも需要に合ったサービスです。

 しかし現在の地元ニーズを、これからの観光の新しいフェーズにつなげていこうとするならば、ぜひ遠くの人に選ばれる観光地としての魅力を勝負どころに、近くのお客さんも巻き込んでいくような企画ともてなしを工夫してください。

 これから段階を踏んで、観光はきっとこれまでと違う形で地域を支える産業になっていきます。


 観光地はそれぞれすべて違いますので、一般論で語れることは 限られています。本来は個別に考えるべきことですが、なにかご参考になることがあれば幸いです。

 ご意見やご質問がありましたら、ぜひメールでご連絡ください。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

柳澤 美樹子

myanagisawa@tabilabo-hongo.com



5月11日公開 「アフター・コロナの観光 ~3つのポイント」 もご覧ください。


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