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次の Go Toトラベル 定額補助で広く長く

更新日:2021年10月26日

 1日のCOVID-19新規陽性者数が全国で2万5000人を超えて震撼した8月をピークに、急激に感染者数・重症者数共に下がったことで、「Go Toトラベルはいつやる?」という声が聞こえてくるようになりました。衆議院議員選挙を前に、期待感を高める政治家からの言及もあります。

 その一方で、「Go Toトラベルよりやることがあるだろう」という意見も、よく耳にします。2020年に実施されたGo Toトラベルは盛り上がりを見せたものの、問題点も指摘されました。

 いずれにせよ未執行のGo Toトラベル予算が約1.3兆円あることは確かで、予算の仕組み上、別の用途に転用するのは難しいでしょうから、「やる」という前提でどのような内容にすれば効果的な事業になるか、考えてみました。


 Go Toトラベルの目的は、この3点にしぼりました。


〇事業予算に旅行者の消費をプラスして、弱った旅行業界を強化。さらに地域経済に波及

〇低リスク、高価値の旅を提供して旅人を満足させる

〇近未来の成長産業として、発展する観光業界への体質改善


 その上での、次のGo Toトラベルの提案内容は下記です。




プラン1 割引は定額に

  1泊3000円+地域共通クーポン3000円


制度はできるだけシンプルに。

1泊したら、ともかく旅行代金から3000円を補助。さらに、地域共通クーポン3000円分を渡す、というものです。

日帰り旅行の場合は、旅行代金の補助はなし。一律3000円分の地域共通クーポンを支給します。旅行代理店の商品、現地の着地型ツアーを問いません。

(旅行代金が宿泊7000円、日帰り4000円未満の場合は、旅行代金の補助のみで地域共通クーポンはなし)

1件当たりの補助金額が低くなる分、広く長く事業を継続できます。


 2020年に実施されたGo Toトラベルでは、宿泊・日帰り共に旅行代金または宿泊料金の35%(補助の上限は1泊2万円、日帰り1万円)が割引になりました。また、地域共通クーポンは15%(上限6000円)でした。

<右図:観光庁のサイトより>











 メディアでもキャンペーンのお得感や、より有利な利用法などを報じたこともあり、観光地では自粛ムードを一掃した盛り上がりを見せたところがありました。

<下図:観光庁「観光白書」2021年6月>



 実施してみると、旅行代金が高い方が“お得感”があるため、「補助する意義の低い、時間とお金のある人を優遇している」という批判がありました。

 昨年の実施期間7~12月の統計を見ると、Go Toトラベルを利用した宿泊旅行者の6割以上が1万円未満の価格帯なので、実体はイメージと違ったとも言えますし、一部の高価格帯利用者が大きなメリットを享受したのも事実だと言えます。

<下図:観光庁「観光白書」2021年6月>


 旅行代金の割合に応じて補助すると、

・パッケージツアーなら交通機関、コース内の食事や観光施設なども補助割合に含まれる

・割引額が大きくなる分、いつもよりランク上の旅を選ぶ可能性が高くなる

といったメリットがありますが、

・高額利用者優遇の印象にモヤモヤする

・×35% という割合の数字にピンとこない

という感覚がありました。

 どの価格帯により重きを置くかは事業の目的次第ですが、今後の旅行者の裾野を広げるには、利用者の多い低価格帯にお得感をもってもらってアプローチするのがいいと思います。

 3000円補助と5000円補助の場合のお得割合と、2020年のGo Toトラベル適用の場合を比較する表を作ってみました。



 前回の「最大2万円+地域共通クーポン15%分」という豪儀な最大補助と比べると魅力が劣るように感じますが、1万円の旅行をする人に6000円は相当ありがたい。10万円の旅行をする人に2万6000円もかなりのものですが、それをありがたがる人はその後も10万円の旅行をする人ではないように思います。「いつかまた」と願ってもらうのもいいですが、前回キャンペーンの利用実態を見ると堅実な旅行者に広く長期にわたって利用されるのが、旅行業界の基礎的な安定感につながると考えられます。

 なるべく例外規定は入れたくありませんが、定額補助だと「3000円の宿に泊まった場合には、負担額0円で3000円分の地域共通クーポンを受け取れる」というおかしなことになってしまうので、適用範囲の下限額は設定しなければなりません。(本案では、宿泊7000円、日帰り4000円未満の場合には旅行代金の補助3000円までのみで、地域共通クーポンは付かない。3000円以下の旅行だとタダになってしまうが、地域に滞在すれば何らか支出することが期待できる)

 それ以下の価格設定なら、他の地域資源や二次交通などとのセットプランを工夫してもらえると、新たな旅の魅力が提供できるのではないでしょうか。



プラン2 クーポンはあえて紙に

  500円券6枚を旅行者の手に


地域共通クーポンは、500円の紙のクーポンを6枚配布します。

紙のクーポンなら地元のより多くの商店や施設で利用でき、地域の日々の売上増につながります。

デジタル技術は、事業者への速やかな振り込みに活用を!


 2020年のGo Toトラベルでは、地域共通クーポンが紙クーポンとデジタルクーポンと両方のケースがありました。

<下図:観光庁のサイトより>


 スマートフォンを使い慣れている旅行者ならデジタルの方が便利だろうと思ったのですが、実際の旅行で使おうとしたら、デジタルクーポンに対応している店が見つからない、ということが起こりました。

 結局、空港の土産物店で買う予定のなかったものを無理矢理買ったとか、駅前のコンビニエンスストアでストック用の乾電池を買うことになって荷物が重くなったとか、笑えない話を聞きました。

 そもそも地域共通クーポンは、旅行事業者だけでなく旅先の地域で物やサービスを買ってもらおうという趣旨で設定されました。しかし、小規模だったり経営者が高齢だったりする店では、「お客さんにQRコードを読み取って確認ボタンを押してもらい、『利用済み』になったことを確認し、その上で差額を現金などで受け取る」というプロセスが受容できないことは、前回で実証されました。ほんとうは、そういう店こそGo Toで訪れた旅行者に利用してほしかったはずなのに。

 紙のクーポンなら商品券と同じなので抵抗感がないし、差額は現金でもクレジットカードでも電子決済でも選べます。

 世の中をデジタル化していかなければならない、という大きな方向性の下に、デジタルクーポンを広げたいのはわかります。しかし、弱った観光事業者や地域経済を活性化するという、この事業の大目標の方が優先です。

 デジタルを進めるのは、そこではありません。宿泊施設や店舗、施設などの事業者が売り上げたGo Toトラベルの補助分、クーポンの金額が、申請したら速やかに振り込まれるシステムの方に活用するべきです。



プラン3 特定日は除外

  年末年始・GW・お盆・シルバーウィークは適用外


観光の超繁忙期には、キャンペーンがなくても旅行者は来ます。さらに旅行者を増やして敢えて過密な状況をつくるのは感染対策上も好ましくないので、Go Toトラベルは適用外にします。

特定日に集まる旅行者を分散し、できるだけ平均的に訪れてもらうことでサービスを高め、よりよい旅で観光客を満足させることができます。

また観光収入を安定させ、ひいては観光従事者の正規雇用にもつなげられます。



 JRのお得なきっぷなどでも、特定日が適用除外になっているケースが多いことはよく知られています。

 お得感のあるプランが使えないことで、集中する日を避けて旅行してもらえれば、平日や閑散期にも集客することができ、入込の平準化が進みます。

 観光業界では時期によって観光客の数が大きく違い、仕事量にも波があることから、忙しいときだけの非正規雇用が多くなり、雇用が不安定、人材が定着しない、スキルが高められない、といった問題を抱えています。

 旅行の集中を解決するには、日本社会全体の休日のあり方、働き方、教育現場の休日、それを支えるひとりひとりの意識にまで大きな変革が必要になります。しかし、オフィス以外で仕事することも一般化してきた流れもあるので、年末年始、GW、お盆、シルバーウィークの4期間は避けるよう誘導して、今後の日本の旅のあり方を方向付けるきっかけとしてはいかがでしょう。2019年まではインバウンドが平日や閑散期を埋めてくれましたが、それを失っている今は、特に分散を進める時です。

 週末の補助を少なくするような案もあるようですが、休前日であってもオフシーズンにはそれほど集中しないところが多いので、一律がよいと思います。例外はできるだけ少ない方がいいです。



プラン4 スタートは検査拡充できた時

  PCR検査陰性者で旅行を再始動


次のGo Toトラベルは、全国で必要な人がPCR検査できる態勢を確立したときにスタート。

旅行者は出発3日以内の陰性確認、観光事業者も少なくとも1週間に1回の検査を。


 Go Toトラベルは、人が動くことで経済活動を促す事業です。これが基本的な感染症対策と相反するために、反対する人がいるのは当然です。しかしこの先、この感染症がすっかりなくなる日がすぐに訪れることは望めないようですし、また別の感染症が出現しないとも限りません。その中でも、観光に限らず、社会全体がリスクを最小限にしながら日常を送れるようにならなければなりません。

 観光について言えば、旅行する時点で「感染している可能性がごく小さい」のを確認することが、完璧ではないけれど確率を下げられる方法です。また観光客を迎える側も1週間に1回程度陰性を確かめられれば、従業員同士も旅行者にも感染させる可能性をかなり減らせます。

 全国どこでも自分が必要と思った時には手軽に、無料または500円程度の廉価でPCR検査を受け、翌日までに結果を手にすることのできるよう整備することが、「旅行に行こう!」と国が主導して言うための絶対条件です。これはもちろん、旅行に限った話ではありません。

 人によって、検査の必要度は異なります。日常的に不特定多数と接している人は、3日に1回は検査したいかもしれません。家からほとんど出ない一人暮らしなら、「何かの時」にだけすればいいでしょう。「人と接触する前には検査」を日常生活の常識、マナーのように習慣づけることが、当分の間は感染症に強い社会をつくる前提となるでしょう。


<なぜPCR検査なのか>

 COVID-19の感染が広がり始めてから、2年近くになります。当初はウイルスの性質も病状も治療法もわからない未知の感染症でしたが、この間にかなりのことがわかってきて、ワクチンや治療薬も開発されています。

 ともあれ、感染症でいちばん重要なことは、「感染しない・させない」ことだということは変わりません。必要なのは、感染者と非感染者が接触しないことです。そのためには、感染者を特定することがスタートです。

 そして「COVID-19は、無症状であっても人に感染させる可能性がある」ということも確かなので、症状がなくても検査しなければ意味がありません。

 感染しているか否かを判定する検査法には、PCR検査と抗原検査がありますが、抗原検査は発症していない段階では50%程度の確度しかないので、現実的なのはPCR検査です。それでも100%正確な結果が出るとは言えませんが、それを補うのが頻回の検査です。

 感染を防ぐ方法は、ともかく感染確率を減らしていくことです。ワクチンでも確率は低くなりますが、人によって抗体の付きにくいこともあるし、時間経過で効果が減退するので、充分とはいえません。ワクチンで症状が抑制される分、無症状で感染を広げてしまうかもしれない矛盾もはらんでいます。

 感染者を見つけて非感染者との接触を断つために、現状、感染者を発見するのに最も有効な方法がPCR検査です。民間検査では約2000円から数万円までと価格の幅が広いですが、公費負担、検査機関の拡充で検査数が飛躍的に伸び、かつその多くが陰性なら、プール法で作業効率を格段に上げて費用も抑えることができるはずです。



終わりに


 旅行業界は、飲食業と違って自粛要請を受けて休んだのではないので、協力金が支払われたわけではありません。さまざまな名目で補助、給付、貸付はありましたが、その都度書類を整えて提出し、審査を待って受けています。「去年から、申請するのが本業みたい」と言っている事業者もいます。新しい補助金を申請するのに、以前の補助金の審査に通っていることが条件になったりもするので、申請し続けるしかないのです。

 さらに補助の条件で、施設中いたるところに「マスク着用」のポスターやステッカーが貼られてしまい、数寄屋造りもこだわったインテリアもがっかり、というわけのわからない事態にも……。

 旅行業界は、ちゃんと観光客を迎えて、仕事をして売り上げを上げられるようにしたいのです。

 前回のGo Toトラベルのような盛り上がりをもう一度期待している向きもありますが、一時期に「今旅行しなければ損だ!」とお得感を享受することが目的のような旅行者を増やしても、今後の継続的な観光需要を喚起することにはつながりません。それより、それぞれの目的や希望に合った旅を楽しみ、お客さんの反応を受け取りながらサービスを提供し、コミュニケーションを取る中でも安心感のある旅を実現していけば、COVID-19前より日本の旅が一段進むのではないでしょうか。それは、やがて戻ってくる外国人観光客の満足にもつながります。

 多額の予算を投じて行うGo Toトラベルは、一時のカンフル剤ではなく、以前より元気になれる点滴として、新しい観光の体質をより豊かで強いものにするよう、じっくりと効果を上げていく事業内容にすべきだと思います。 (2021年10月25日)


(一社)旅LABO本郷 柳澤美樹子

myanagisawa@tabilabo-hongo.com




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